多くの有名な映画監督を輩出している北京電影学院教授、謝飛(シェ・フェイ)監督の1989年作品。文革後の1980年代、文革後の虚脱感の中、時代の方向性が見えない青年たちの閉塞感を象徴的に描いた作品。本作品は1990年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞。
李慧泉(姜文)は3年の刑期を終え仮釈放され、北京に戻ってきた。彼は親友の又子(劉小寧)が、振られた彼女と付き合っていた男を殺しかけたのを手伝ったとして、逮捕され服役したのだった。主犯の方又子は終身刑を宣告され、そのまま服役したまま。戻ってみると母親は亡くなっており家には誰もいない。近所の羅おばさん(孟瑾)だけが親切に面倒を見てくれようとする。そして慧泉が昔好きだった幼なじみの羅おばさんの娘、小芬(岳紅)は恋人との結婚を間近に控えていた。
釈放され、又子の家族を訪ねると、母親は犯罪者となった息子とは縁を切ると言い、又子の収容先も教えようとしない。かろうじて弟が彼の収容先住所を教えてくれた。
羅おばさんの手助けで、慧泉は露天商の免許を取り、市場で衣類を売って生計を立てることに。やがてたまたま入った酒場でブローカーの崔永利(蔡鴻翔)と歌手の趙雅秋(程琳)と知り合う。慧泉はブローカーの永利から衣類を安く仕入れて、商売の売り上げを伸ばすと共に、毎週土曜日、雅秋を家まで送り届ける役割を任される。やがて慧泉は、まだ無名の歌手雅秋に心を寄せるようになる。
だが彼の幸せは長く続かなかった。雅秋は歌謡コンクールに出演し徐々に名前が売れるようになり、慧泉のボディーガード役はお役ご免に。雅秋は徐々に彼の手の届かない存在になっていく。さらに、永利の斡旋で広州の方まで公演にまで行くように。しかし、その時彼女は永利のモノになってしまう。
そんな中、又子が彼の部屋を訪れる。彼は脱獄して彼の家までやってきたのだった...
監督の謝飛は中国第4世代監督。1942年陕西省延安生まれ。1965年北京電影学院を卒業後、学院側から撮影現場に行かず、学院に教員として留まり後進を教えるように指示される。ところがその直後文革が始まり、革命宣伝のため全国をあちこち歩き回ることに... 10年後ろくな現場経験もなく学院に戻り、そのまま映画教育に携わって、著名な第5世代監督たちを育てることになるが、自分自身も実際の映画製作の経験がなく、彼らと共に学びながら教える。1983年にようやく実質的な初監督作品『Our Field (我们的田野)』を撮影。その後は1986年『蕭蕭（シャオシャオ）』、そして本作、1993年『香魂女』、1997年『草原の愛 / モンゴリアン・テール』2000年『チベットの女、イシの生涯』と撮影してきて現在は北京電影学院名誉院長。
北京電影学院の教授という要職にありながらも時代の閉塞状況を、社会批評的な視点を含みながらきっちりと描いている点に何よりも感心させられるとともに、やはり彼の柔軟な視線が第5世代監督を生み出すのに大きく貢献したことを確信させられる作品。姜文演ずる青年のはかない希望がもろくも潰えていき、時代から取り残されていく焦りを含めたその心理過程をきっちり描き込んでいる。
なお題名の「本命年」とは厄年の意味らしい。また英題が「Black Snow」になっているのは本作品の原作、劉恒の小説「黒的雪」から取られている。
本作品は1990年、日本でも徳間東光の配給で劇場公開されたがDVDは出ていない。
なお、Second Run DVDから出された本作品のイギリス盤DVDのすばらしいクオリティには驚かされた。高画質DVD盤の代名詞といえば、アメリカのクライテリオンがすぐ思い浮かぶが、Second Run DVDの丁寧な作りはそれに決して劣らないもの。先日見たSecond Run DVDのモノクロ映画を集めたハンガリー傑作選もなかなか好ましい画質だった(これらのハンガリー映画に関しては、一部はハンガリーFantasy FilmからMagyar Filmek Gyűjteményeとして出されたハンガリー古典映画のリマスターDVDコレクションが原盤ではないかと思われる)。本作品はカラーであるが、そのヴィヴィッドでダイナミックレンジの広い色彩は、ひょっとするとオリジナルフィルムを上回るかもしれないと思わされる鮮明さ。これはまさに驚嘆もの。そして付加映像にはポイントを突いた謝飛監督の興味深いインタビュー収録。そして充実したパンフレットの封入など丁寧な作り。
Second Run DVDは2005年創業のDVDソフトメーカー。その名の通り、封切り映画ではなく、むしろ未知の名画をDVDで掘り起こすことを主眼としているようで、DVDのアートワークも派手さはなくむしろ地味な作り。だがその中身は映画遺産をきちっと後世に残していくという意気込みが感じられる。同じイギリスのDVDメーカーでアート映画に特化したArtificial Eyeよりもより丁寧で誠実な仕事ぶりは賞賛に値する。現在東欧の作品が多いがおそらくスタッフに東欧系の人が多いのではないかと思われる。それがイギリスメーカー離れした丁寧な仕事の秘密なのか？
映画・DVDマニアにはSecond Run DVDを強く推薦したい。因みにSecond Run DVDで検索しても国内のサイトはどこもヒットしない。おそらくまだ日本国内では、彼らのすばらしい仕事ぶりに誰も気づいていないのだろう。
またSecond Run DVDでは謝飛監督の2作目として『蕭蕭（シャオシャオ）』のリリースを予定しているようだ。
原題『本命年』英題『Black Snow』監督:謝飛
1989年 中国映画
DVD(UK盤)
発行・発売:Second Run DVD 画面: Pal/4:3(1:1.33) 音声: Dolby1 北京語 本編: 107分
リージョンALL 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2010年5月 希望価格 ￡12.99
Second Run DVD公式サイト(英語)
http://www.secondrundvd.com/
New UK Label: Second Run DVD (Home Cinama 英語)
http://homecinema.thedigitalfix.co.uk/content.php?contentid=57884
多くの有名な映画監督を輩出している北京電影学院教授、謝飛(シェ・フェイ)監督の1989年作品。文革後の1980年代、文革後の虚脱感の中、時代の方向性が見えない青年たちの閉塞感を象徴的に描いた作品。本作品は1990年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞。
李慧泉(姜文)は3年の刑期を終え仮釈放され、北京に戻ってきた。彼は親友の又子(劉小寧)が、振られた彼女と付き合っていた男を殺しかけたのを手伝ったとして、逮捕され服役したのだった。主犯の方又子は終身刑を宣告され、そのまま服役したまま。戻ってみると母親は亡くなっており家には誰もいない。近所の羅おばさん(孟瑾)だけが親切に面倒を見てくれようとする。そして慧泉が昔好きだった幼なじみの羅おばさんの娘、小芬(岳紅)は恋人との結婚を間近に控えていた。
釈放され、又子の家族を訪ねると、母親は犯罪者となった息子とは縁を切ると言い、又子の収容先も教えようとしない。かろうじて弟が彼の収容先住所を教えてくれた。
羅おばさんの手助けで、慧泉は露天商の免許を取り、市場で衣類を売って生計を立てることに。やがてたまたま入った酒場でブローカーの崔永利(蔡鴻翔)と歌手の趙雅秋(程琳)と知り合う。慧泉はブローカーの永利から衣類を安く仕入れて、商売の売り上げを伸ばすと共に、毎週土曜日、雅秋を家まで送り届ける役割を任される。やがて慧泉は、まだ無名の歌手雅秋に心を寄せるようになる。
だが彼の幸せは長く続かなかった。雅秋は歌謡コンクールに出演し徐々に名前が売れるようになり、慧泉のボディーガード役はお役ご免に。雅秋は徐々に彼の手の届かない存在になっていく。さらに、永利の斡旋で広州の方まで公演にまで行くように。しかし、その時彼女は永利のモノになってしまう。
そんな中、又子が彼の部屋を訪れる。彼は脱獄して彼の家までやってきたのだった...
監督の謝飛は中国第4世代監督。1942年陕西省延安生まれ。1965年北京電影学院を卒業後、学院側から撮影現場に行かず、学院に教員として留まり後進を教えるように指示される。ところがその直後文革が始まり、革命宣伝のため全国をあちこち歩き回ることに... 10年後ろくな現場経験もなく学院に戻り、そのまま映画教育に携わって、著名な第5世代監督たちを育てることになるが、自分自身も実際の映画製作の経験がなく、彼らと共に学びながら教える。1983年にようやく実質的な初監督作品『Our Field (我们的田野)』を撮影。その後は1986年『蕭蕭（シャオシャオ）』、そして本作、1993年『香魂女』、1997年『草原の愛 / モンゴリアン・テール』2000年『チベットの女、イシの生涯』と撮影してきて現在は北京電影学院名誉院長。
北京電影学院の教授という要職にありながらも時代の閉塞状況を、社会批評的な視点を含みながらきっちりと描いている点に何よりも感心させられるとともに、やはり彼の柔軟な視線が第5世代監督を生み出すのに大きく貢献したことを確信させられる作品。姜文演ずる青年のはかない希望がもろくも潰えていき、時代から取り残されていく焦りを含めたその心理過程をきっちり描き込んでいる。
なお題名の「本命年」とは厄年の意味らしい。また英題が「Black Snow」になっているのは本作品の原作、劉恒の小説「黒的雪」から取られている。
本作品は1990年、日本でも徳間東光の配給で劇場公開されたがDVDは出ていない。
なお、Second Run DVDから出された本作品のイギリス盤DVDのすばらしいクオリティには驚かされた。高画質DVD盤の代名詞といえば、アメリカのクライテリオンがすぐ思い浮かぶが、Second Run DVDの丁寧な作りはそれに決して劣らないもの。先日見たSecond Run DVDのモノクロ映画を集めたハンガリー傑作選もなかなか好ましい画質だった(これらのハンガリー映画に関しては、一部はハンガリーFantasy FilmからMagyar Filmek Gyűjteményeとして出されたハンガリー古典映画のリマスターDVDコレクションが原盤ではないかと思われる)。本作品はカラーであるが、そのヴィヴィッドでダイナミックレンジの広い色彩は、ひょっとするとオリジナルフィルムを上回るかもしれないと思わされる鮮明さ。これはまさに驚嘆もの。そして付加映像にはポイントを突いた謝飛監督の興味深いインタビュー収録。そして充実したパンフレットの封入など丁寧な作り。
Second Run DVDは2005年創業のDVDソフトメーカー。その名の通り、封切り映画ではなく、むしろ未知の名画をDVDで掘り起こすことを主眼としているようで、DVDのアートワークも派手さはなくむしろ地味な作り。だがその中身は映画遺産をきちっと後世に残していくという意気込みが感じられる。同じイギリスのDVDメーカーでアート映画に特化したArtificial Eyeよりもより丁寧で誠実な仕事ぶりは賞賛に値する。現在東欧の作品が多いがおそらくスタッフに東欧系の人が多いのではないかと思われる。それがイギリスメーカー離れした丁寧な仕事の秘密なのか？
映画・DVDマニアにはSecond Run DVDを強く推薦したい。因みにSecond Run DVDで検索しても国内のサイトはどこもヒットしない。おそらくまだ日本国内では、彼らのすばらしい仕事ぶりに誰も気づいていないのだろう。
またSecond Run DVDでは謝飛監督の2作目として『蕭蕭（シャオシャオ）』のリリースを予定しているようだ。
原題『本命年』英題『Black Snow』監督:謝飛
1989年 中国映画
DVD(UK盤)
発行・発売:Second Run DVD 画面: Pal/4:3(1:1.33) 音声: Dolby1 北京語 本編: 107分
リージョンALL 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2010年5月 希望価格 ￡12.99
Second Run DVD公式サイト(英語)
http://www.secondrundvd.com/
New UK Label: Second Run DVD (Home Cinama 英語)
http://homecinema.thedigitalfix.co.uk/content.php?contentid=57884
